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小咄倉庫

2010年03月29日(Mon)
【狂気の住む池(日和/魚太)】

「殺されたいの?」


■狂気の住む池■


その日、私は竹中さんに案内された池で釣りをしていた。
何時間経っても魚は一向に釣れず、この池本当に魚が居るのかなぁと私が疑念を感じ始めた頃。

「…太子」
「ん〜?何?竹中さん」

私の隣に居る竹中さんの顔を見る。
彼の目は、ただひたすらに釣り竿の先を見つめていた。

「釣れないね、魚」
「え…う、うん。そうだね」

竹中さんはそれっきり口を開かない。
私はゆっくりと目線を自分の釣り竿の先へと戻した。
風に吹かれて、辺りの木々がざわめく。
池の表面が大きく波打つ。

(なんだか…怖い、な)

深い深い森の中。
ここには、私と彼しか居ない。
ぶるりと身体が震える。

「…た、竹中さん」

ちらりと横目で隣の彼を見る。

「何?太子」

竹中さんは静かに顔を動かして、私と目線を合わせる。
薄く笑って、こちらを見ている彼の顔。
先程よりも酷い寒気。

(怖、い……)

思わず自分の身体を両手で包み込む。
持っていた釣り竿が、ぱしゃりと音を立てて、池に沈んでいく。

「太子…どうしたの?」
「あ……」

何故だろう。
怖いだなんて。
彼をそんな風に感じるなんて。

こんなにも、寒いだなんて。

「竹中、さん」

震えそうになる声を、なんとか我慢する。
今更平静を装っても無駄だとわかっているけれど。
怖い。

「太子?」

彼が、怖い。

「今日は、もう…帰ろう?」

私はそう言って、勢いよく立ち上がった。
すぐにでも帰りたかった。
この場から、早く。

「また…さ、今度は、妹子でも誘って、3人で来ようよ」

竹中さんは何も言わず、私を見ている。

怖い。
怖い怖い怖い怖い…!

「太子、駄目だよ」

優しく反響する、彼の声。


「殺されたいの?」


バシャンと何かが跳ねる音。
やはりこの池には魚が居たのか。
それとも、魚ではない何かが。

別の、何かが。


END

******
ホラー竹中。


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