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小咄倉庫

2010年03月28日(Sun)
【存在意義(日和/魚太←妹)】

僕は、あなたにとってどういう存在なのだろうか。
ねぇ、太子。


■存在意義■


「妹子ぉ〜〜!!」

両手いっぱいの書類をなんとか落とさないように廊下を歩いている僕の背後で、あのうるさいおっさんの声が聞こえる。
当然、無視。

「お…おいコラ!お前!聖徳太子がお呼びだぞ!無視するなよこの芋!!」
「うるさいです。黙れこの加齢臭が」
「こ…こらこら!誰がカレー臭だ!!」
「カレー臭じゃなくて、加齢臭です、太子」
「わざわざ言い直さんでいいっつの!」

とりあえず、僕は仕事があるのであなたの相手はできません、と伝え、太子が何か反論する前に書庫へ入る。
手に持っていた書類をドサッと置き、凝った肩を揉みほぐしていると、書庫の外から「ふーんだ!妹子のアホ!お前の母ちゃんアルミホイル!!」という太子の意味不明な叫びが聞こえた。
まったく、あの人は一体何なんだろうか。
毎日遊んでばかりで仕事はしないし、変質者のような訳のわからない行動はするし、何を考えているのかサッパリわからない。
僕が思い描いていた聖徳太子という男は、あんな奇想天外なジャージ男なんかでは、決して無かった。

(でも…あの人が官位十二階や十七条の憲法を制定したのは、確かなんだよな……)

あんなもの、普通の人には到底できない偉業だ。
実際太子は、極たまにではあるが、この国の政治に関する話題を口にすることもある。(それもかなり高度な考えを有する話題だ)

「…やっぱり、腐っても摂政なんだよな、あの人」

本人が聞けば「腐っとらんわ!新鮮だぞ、し・ん・せ・ん!!」などとムキになって言いそうだな、と想像して、そんな自分に苦笑する。
なんだかんだ言って、僕はあの人を(それなりに)尊敬しているし、好意も持っている。

(この仕事が終わったら、取り合ってやるか)

そう思いながら、僕は目の前にある大量の書類の整理に取り掛かった。





「結構時間が掛かっちゃったな…」

やっと書類整理を終えた頃、外はすでに暗くなり始めていた。

(太子はどこに行ったんだろ…)

この時間なので、もう自室に戻ってしまったのかもしれない。

「…行ってみるか」

太子の自室の前まで来たところで、中からかすかに声が聞こえた。
太子と、どうやらもう一人誰か居るらしい。

(誰だろ?太子の自室に来る人なんてそうそう居ないのに…)

部屋の外から様子を窺っていると、突然ガタンと大きな音がした。
何事かと思い、そっと少しだけ襖を開け、中の様子を盗み見る。
太子が居た。
そして、もう一人。

太子は、その人物の腕の中に居た。

「……たけなか、さん…」

小さくその人物の名前を呼んだ太子の身体が、小刻みに揺れている。
泣いているようだった。

僕は何かから逃げるように、その場を離れ、さっきまで仕事をしていた書庫に戻る。

頭が痛い。
胸が苦しい。

「………太子、」

僕は、あなたにとってどういう存在なんだろか。
ねぇ、太子。

「僕じゃ、駄目なんですね…」

暗くて寒い書庫の中で、僕は声も上げずに静かに泣いた。


END

******
ジメジメした話ばかりですみません。


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